工女の虐待 3

そこに2日ばかりの間は苦痛を忍び飢を忍んで息をひそめていたが、ついに堪えかねて、9日午前1時頃またもひそかに縁の下から這い出て、重い足を引摺りながらようやく大宮町まで逃げ延びてきた。


同所の雇人口入業武田ラク方に赴き、事の次第を涙ながらに打明け、他の奉公の周旋を頼んでいた折・・・


大宮署の鈴木巡査が同家前を通りかかり、キヌイの姿を認めて不審を抱き、親しく事の仔細を尋ねてみれば、捨て置き難い事柄なのでその旨大宮署に報告に及んだ。


そこで同署では即時刑事巡査を派遣して取り調べたが、キヌイの申し立てに違いないので


取敢ず主人のイトをはじめタカ、ヤイの3人を捕えて尋問したところ、イトは無関係なことが判明したのでそのまま放還


タカ、ヤイの両人は被害者の告訴によって浦和地方裁判所へ送致し同所で審理の末、前記の如き判決を与えたという。


また被害者キヌイはその後、大宮町の潔行舎という掃除受負人の許に引き取られたが、今もなお傷の治療中である。


・・・このような報道について、商工局は埼玉県警察部宛、その事実を照会しています。


工女の虐待 2

・・・ところが東京とは偽りで、その実キヌイは大宮町に連れて行かれ、ある桂庵の手を経て前記関根方へ前借金15円で住み込んだが、その15円さえ自分の身には一文もつかず、ことごとく周旋人に捲き上げられてしまった。


ここではじめて身を売られたことを知り、どうしたらよいか案じたが、相談相手一人たりともなく、ただ涙をのんで同家で過すことにした。


忍耐して一生懸命働いたが、日がたつにつれて主人の待遇は悪くなり、その上主人に従う次女タカが女の身にあるまじき悪口雑言をはいてキヌイをののしるのだった。


それをキヌイは従順に柳に風と受け流していれば、それをまたよいことに調子に乗って付け上り、


『豚力猫ヲ使フヤウニ1分間モ休息サセズ毎日1丈ノ機ヲ織ラザレバ食物ヲ与ヘスト云渡スニ至リシヨリキヌイ、


夜ノ1時2時迄機台ヲ下リルコト叶ハス


身体次第二衰弱シテ今ハ苦痛二堪へ難キマデニ至リシヲ無慈悲ノタカ等ハ仮借ナク


叱シテ現二去月6日ノ如キタカハ、些細ノ事二角芽立チ雇女ノヤイ、ヲ加勢二頼ンデ泥二塗シ下駄ヲ取ルヨリ泣キ詫ブルキヌイ、


ヲ引倒シテ頭部面部ノ嫌ナク打据エテ打撲ヲ負ハセタルニゾ流石ノキヌイ、モ心ヲ決シ……』


・・・翌日午前4時頃家内の者の目覚めないうちにひそかに寝所壷起き出て、ひとまず縁の下に身を潜めていました。

工女の虐待

明治30年代には、工女の虐待が絶えず新聞紙上に報ぜられ、社会問題化していました。


『職工事情』は、その当時の工女虐待の状況を生々しく伝えています。


そのうちの数例をここに掲げておきたいのです。


まずは埼玉県の例。


明治34(1901)年9月、埼玉県北足立郡大宮在植水村で起きた工女虐待事件について、同39年9月18日の『時事新報』はつぎのように報じています。


工女虐待の裁判、埼玉県大字島根機業家関根イトの次女タカ(28)及び雇人岡村ヤイ(16)の両人が雇人たる千葉キヌイ(16)を殴打して十数カ所の傷を負わせた件により・・・


去る15日浦和地方裁判所に於て、タカは重禁固15日、ヤイは拘留7日に処せられた


その次第を聞くと、被害者キヌイは岩手県西岩井郡老松村、千葉安之助の姪


9歳の時両親に世を去られ、余儀なく叔父安之助方に身を寄せて近所の者の子守などに傭われていたが、本年2月中ある人の世話で東京に奉公に出ることになり、叔父安之助も承知してキヌイを世話人に引き渡した。


・・・と。

ほんものの名酒とは 10

また純米酒が普及しはじめた頃は、「一級にうまい酒がありますね」と酒のわかる飲み屋のおかみさんが言いだしました。


これは純米酒はまだよく知られていなかったので、蔵元のほうでもせっかくいい純米酒を出荷しても売れないのを懸念して、税金面も安く抑えられるので一級規格にとどめました。


またアルコール添加量を控え目にして糖類を添加しない本醸造酒も、おなじ理由で一級酒のものが多くなったのです。


かくて「一級にうまい酒が多い」という現象が目立つようになったのです。


しかし、その後すばらしい吟醸酒や古酒で、もし純粋に品質を酒類の格づけの規準とするなら、これこそ特級、超特級の酒なのに、税金対策のため、わざと一級や特級の格づけ審査にださない「無鑑査」の高価格二級酒が、デパートの酒売揚などに並ぶに到ったのです。


こうなると二級とはいっても「酒は地酒の二級にかぎる」と酒通が礼賛したのとはニュアンスがちがってきます。


級別撤廃論や、特・一・二級の区別はナンセンスだという論もこの辺から出てきました。


とにかく、こうした実状をふまえて、酒を品質と味で区分けしようとするなら、どうしてもジャンル分けして、特定の酒がそれぞれのジャンルにおいていかにすぐれているかを見極めるのでないと、明確にならぬのです。

日本の学界のうぬぼれ

・・・洋行者は、あるいはその数において減少せざるが如しといえども、洋行というものの性質は、今まさに一変せんとす。


一、ニの例を挙げて証せんに、昨年早稲田専門学校卒業生島村滝太郎氏の洋行するや、文学博士坪内雄蔵氏送別に臨みて演説して言えらく、従前の洋行者は定見なくして行き、彼の学に心酔せり。


今後の洋行者は定見を持して行き、彼に参考の資を求むと。


いわゆる定見にして彼に優るか、または少くも彼と同等ならば、この現象は旧に比して著しき進歩ならん。


然れどももし定見の彼に劣るものあらんか、いわゆる定見を持しての洋行は、三四十年前の他山石主義と何ぞ択まん。


また最近の太陽に、在ベルリン文学士姉崎正治氏の回書を載せたるを見るに、姉崎氏は自家の洋行のほとんど全く無功なりしを歎じ、ドイツの学聞宗教の根抵の取るにたらざるを看破したるをもって、自家の洋行の唯一の利益となしたり。


しかして今の文壇の名士は多くこの説に賛同せり。


これ洋行無用論たるに近く、また一歩を進めて言えば、洋学無用論たるに近し。


これによりて観るに、洋学衰退の朕兆あることは事実なるが如し。


しかしてこの事実の由りて来たる所は、明治文教の隆盛ようやくその度を進めて、学者の自信力の長じたるにあり。


今の問題は、この自信力はたして実価ありや、堅固なる根抵ありや、または驕慢自負うぬぼれの致すところなりやを論究するをもって、最も緊要なりとす。


・・・鴎外は若いころドイツに留学し、ヨーロッパの空気を吸って成長した人です。


日本の学界のうぬぼれに大きな反発を感じたことでしょう。


本日の英語のお話は以上です^^


そういえば、最近買った香水の評判が良いのです♪


特に女性に^^


二つの労働の対立

あらゆる状況を通じて、私は今日の労働の中の最大の問題は、物象化された能力の系をめぐって、それを道具として使う立場にある人間・・・


そして、その道具としての機能に奉仕する人間との間に生じる分裂と対抗であると考えます。


計算機を使う人間と計算機のために働く人間。


研究所の科学者とテクニシャン。


流れの外側で管理する人間と、流れの内側で働いている人間。


・・・さまざまな例があります。


一方の側にはどんなにささやかであっても蓄積された巨大な能力を自己の力としながら積極的な活動を行なう領域が残されています。


Tomcatもそのひとつの例でしょう。

ほんものの名酒とは 9

これは決して通をきどっていうのではありません。


細かく刷き分ければ日本酒にもワイン同様に年度もの(ヴィンテージ)を云々できるほど、その年々によっておなじ銘柄のおなじジャンルのものでも味わいがちがうのです。


どの年のものもすぐれていたとしてもやはり、くっきりとある年のものが特別いいことがあります。

またその佳酒を3年、5年、10年と保存、秘蔵する古酒になると、年が経つにつれて思いがけないすばらしい風味が実現することもあるのです。


いずれにせよ"名酒"のレベルで酒を論じるなら、ある特定の銘柄だけを挙げてすませるような大ざっぱな賞め方はできないのです。


以前、灘、伏見の大手の酒の桶買い・大量生産による清酒の画一化にがまんできなくなった愛酒家たちが、地方の中小酒蔵の自家製酒に目を向けました。


いわゆる「地酒ブーム」が起こりはじめたころは、「特級より2級のほうがうまい」という酒通があちこちにいました。

ほんものの名酒とは 8

「なにがいちばんうまい酒か」ときかれれば、私はすぐ


「吟醸ならば熊本の"香露"。塩釜の"浦霞"の大吟醸もいいですね。


越後湯沢の"白瀧"の大吟醸もさすがだし、"菊姫"の大吟醸はコクがあって爽やかですよ。


純米酒で選ぶなら芳醇な広島西条の"賀茂泉"、品がよくてさらりと旨い岡山の"御前酒"、伏見の"招徳"が正月に出す純米大吟醸のゴク味もこたえられません。


"越乃寒梅"の純米も風土の味がにじみ出るようですねえ。


"白鷹"の純米や4国"梅錦"の"酒一筋"という純米も最高です。


古酒なら大分国東の"西の関"の秘蔵古酒。酒田の"初孫躍の秘蔵古酒もまさにシェリー調、フランス料理にもぴったり合いますよ」


・・・といったぐあいに、たちどころに10や20の銘柄のどのジャンルの酒がいいかを答えるのが常です。


その人の好みや、細かいことをいえば何の料理で飲むのかなどがわからなければ、どんピシャリと1つの酒を指定することはできないのです。

ほんものの名酒とは 7

これまでいいお酒は?といえば、一般には『菊正』(菊正宗)がいいですとか、『賀茂鶴』がいいですとか、とかくある銘柄のものを、すべていいような言い方をしたり解釈をしたりするのが通常でした。


せいぜい区別するとすれば、それぞれの"特級"が最上とされて、やはり『月桂冠』の特級がいいとか、『賀茂鶴』の超特級の金粉入りがいいというふうな弁別がなされていました。


いまでも新しい酒の世界の動きにくらい大多数の主婦の人々は、こういう規準で酒屋に注文を出しているのではないかと思われます。


少し進んで、地酒にいいものがあるらしい、という程度の知識をもっているサラリーマンや主婦、学生などでも、


「けっきょくいまいちばんうまい酒は何ですか」


とたずねます。


やはり特定の銘柄を答えることを期待されるわけで、これにはいつも困ってしまいますね。


なぜなら、名酒というものはそれぞれにすぐれ、みなちがいがあるのです。


また、たしかにすぐれた名酒を出す酒蔵の酒は、全体としても永準が高く、うまい酒が多いということはいえます。


事実、どの酒を飲んでもそれぞれにいいという酒蔵もないではありませんが、やはり特別にすぐれたジャンルというものがあり、たとえば吟醸酒が断然すぐれているとか、純米酒が滅法うまいとか、秘蔵古酒がほかに類をみないとか特色があります。


どれもみな名酒とは限らないのです。

ほんものの名酒とは 6

山梨県南巨摩郡増穂町の『富水』(秋山酒造店)で最初に実用化された『泡なし酵母』というものもあります。


この『富水』の酒造揚は秋山裕叫前醸造試験所長の実家で、通常の清酒酵母だと鯵(もろみ)発酵中に「高泡」と呼ぶ泡が立ってたえず泡を消去しないとタンクから溢れますが、こういう泡が立たず、泡を消去する作業も要らない便利な酵母が、「泡無し酵母」なのです。


しかもでき上がった酒は吟醸タイプの香りや風味を見事にたたえています。


このような酵母の選択や、翫づくりの方法、さらには、仕込みの温度、蔵や自然条件への配慮などを含めた、杜氏や技術者の才幹と努力、さらには蔵元を含めた人間性の結晶・・・


こうしたものの実りであることが、まず名酒といわれるものの基本条件と言えるでしょう。


原料米も選び、その精白度を高め、水も選び、よき杜氏を得てつくる酒に、駄酒があろうはずはありません。


しかし、それでも名酒といわれるほどの美味をたたえるかどうかは、さまざまな要素の組み合わせ、バランスなど、最終的には微妙な偶然性にも支配されるのです。


名酒はこのようにして、まず基本条件から平板な量産酒とはちがっていることを明記しておきます。

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