・・・洋行者は、あるいはその数において減少せざるが如しといえども、洋行というものの性質は、今まさに一変せんとす。
一、ニの例を挙げて証せんに、昨年早稲田専門学校卒業生島村滝太郎氏の洋行するや、文学博士坪内雄蔵氏送別に臨みて演説して言えらく、従前の洋行者は定見なくして行き、彼の学に心酔せり。
今後の洋行者は定見を持して行き、彼に参考の資を求むと。
いわゆる定見にして彼に優るか、または少くも彼と同等ならば、この現象は旧に比して著しき進歩ならん。
然れどももし定見の彼に劣るものあらんか、いわゆる定見を持しての洋行は、三四十年前の他山石主義と何ぞ択まん。
また最近の太陽に、在ベルリン文学士姉崎正治氏の回書を載せたるを見るに、姉崎氏は自家の洋行のほとんど全く無功なりしを歎じ、ドイツの学聞宗教の根抵の取るにたらざるを看破したるをもって、自家の洋行の唯一の利益となしたり。
しかして今の文壇の名士は多くこの説に賛同せり。
これ洋行無用論たるに近く、また一歩を進めて言えば、洋学無用論たるに近し。
これによりて観るに、洋学衰退の朕兆あることは事実なるが如し。
しかしてこの事実の由りて来たる所は、明治文教の隆盛ようやくその度を進めて、学者の自信力の長じたるにあり。
今の問題は、この自信力はたして実価ありや、堅固なる根抵ありや、または驕慢自負うぬぼれの致すところなりやを論究するをもって、最も緊要なりとす。
・・・鴎外は若いころドイツに留学し、ヨーロッパの空気を吸って成長した人です。
日本の学界のうぬぼれに大きな反発を感じたことでしょう。
本日の英語のお話は以上です^^
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